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都構想は大阪を副首都にするための布石…か?

府と市の特別顧問を務める中央大学の佐々木信夫名誉教授は、都構想は大阪を副首都にするための布石であり、国の危機管理上、また、国土の均衡ある発展のためにも必要な改革だと述べました

情報源: 都構想 意見交換会で意義強調|NHK 関西のニュース

リンク先がリンク切れになりやすいかもしれないので,その際はご容赦を.

えーと,「大阪」が地理的にどこを指しているのかよくわかりませんが,持ち上げるだけ持ち上げておいても,いずれ現実に直面してしまうかもしれません.

以下,5年くらい前にやってみた大阪が副首都になれるかどうかの検討.

 

”ブログじゃねぇか!” という方には以下をどうぞ.
https://policy-practice.com/db/2_59.pdf

 

#この佐々木先生の「東京都政」(2003)という本のp.207には,こう書かれている.

”二三区を八つぐらいに再編し,それぞれを100万程度の政令指定都市にする方向が考えられる”

この文脈を大阪に当てはめてみよう.
大阪市を廃止して4つの区に再編すると,1つあたり80万人くらい(60〜75万人規模)らしいので,現在の政令指定都市の基準なら,それぞれが再び政令指定都市になれるかも.そうすると,大阪には政令指定都市が計5つになるかな.
立派な「二重行政」復活かな.(焼け太りとも言う)

#公式コメントバージョン
 報道によると,府と市の特別顧問の話では,都構想は大阪を副首都にするための布石だそうだ.これは「表の布石」.だが,残念ながら大阪は副首都には向かない.副「首都」の必要性が顕在化するのは首都直下地震や富士山の降灰などで東京が機能しなくなったときだ.歴史的に見てこれら災害は南海トラフ大地震とほぼ同時期のことがある.南海トラフ大地震発生時には大阪の平野部では大きな揺れに見舞われ,大阪市内西側では大津波の被害が心配される.建物だけ揺れに耐えても都市は機能せず,副首都大阪は絵に描いた餅だ.
 「裏の布石」はこう見える.大阪市を4分割することで60〜75万人規模の基礎自治体がができるが,現行制度下では個々が政令指定都市になれる規模だ.堺を含め,府下には5政令市が復活可能なわけで,権限の強い市長ポストを増やせる「布石」である.特別区の政令市化は特別顧問の著書「東京都政」(2003,岩波新書)のp.207に書いてあるアイデアでもあるが,二重行政を批判しながらも結果として多重行政を目指す方向に歩むという矛盾が存在する.
 このように,表の布石は絵に描いた餅,裏の布石は焼け太りへの道ということである.

「大阪都構想の危険性」に関する学者所見(2020)

大阪は副首都になれるか(かつての首都機能移転候補地との比較編)

副首都のロケーションのお話,今回が最終回である.

今回は,かつての首都機能移転候補地との比較である.副首都ということは,首都機能のバックアップを行う機能であるので,かつての首都機能移転候補地がそれに適している可能性が高い.すでに全国で数カ所が選定されるところまでは話が進んだ.

チェックポイントは東京都の同時被災の可能性がないか,単独での被災の可能性はどの程度か,新たに都市機能一式を1からそろえなくても既存の都市集積の機能を活用できるか,近傍の既存の都市の肥大化を招かないか,広域的なアクセスに不便はないか,などである.


【ロケーション】

具体的には「栃木・福島地域」「岐阜・愛知地域」が既に選ばれ,リニア新幹線を想定した交通整備を条件に「三重・畿央地域」も選ばれている.

栃木・福島地域は、概ね栃木県大田原市、黒磯市、那須町、西那須野町、塩原町、福島県白河市、須賀川市、表郷村、東村、中島村、棚倉町、石川町、玉川村、平田村、浅川町にわたる地域である。

つまり,東北新幹線沿線のこの範囲あたり,塩原盆地から白河盆地あたりである.

岐阜・愛知地域は、概ね岐阜県多治見市、瑞浪市、恵那市、土岐市、可児市、御嵩町、笠原町、愛知県豊田市、藤岡町、小原村、足助町、旭町にわたる地域である。

つまり,愛知県東部〜岐阜にかけてのかなり広範囲な地域である.

三重・畿央地域は、概ね三重県津市、上野市、鈴鹿市、名張市、亀山市、関町、河芸町、伊賀町、島ヶ原村、阿山町、大山田村、青山町、滋賀県水口町、土山町、甲賀町、甲南町、信楽町、日野町、京都府南山城村、奈良県月ヶ瀬村、山添村にわたる地域である。

つまり,三重県中央の山間部〜京都府南部の山間部にかけての広範囲な地域である.


【地震リスク】

いずれも密集地帯ではないので用地確保はできるとして,まずは災害,特に地震の面である.今回も,以前に参照したこのファイルを見ながら話をしよう.詳しい震度については,こちらのサイトの方が便利である.

栃木福島地域は,首都機能移転地の議論をしていた当時はともかく,今となってはここを移転先にしなくて良かった感が無いではないが,現状における今後の状況を見ると,震度6弱以上の地震が30年間に発生する確率は,3から6%の範囲が比較的多く,大阪周辺の各地と比べると京阪奈丘陵の西側区域が同程度であり,それ以外の大阪近辺の地区よりもこっちの方がマシである.

岐阜愛知地域については,首都機能移転候補地選定をしていた時代に比べて東海地震の想定震源区域が名古屋市に近い場所までかかるようになったことも影響して,震度6弱以上の地震が30年間に発生する確率は,6%を越えており,26%超の区域も多い.今となっては首都機能移転候補地としては地震の面では今ひとつである.大阪周辺の各地と比べると,大阪湾の埋め立て地は論外として,多くの選定地と同程度の危険度である.京阪奈丘陵がややマシである.

三重畿央地域については,伊賀市付近でややリスクが高く,全般的に伊勢湾に近い地域でのリスクが高いが,それ以外については京阪奈丘陵と同程度になっている.伊勢湾岸に近い地域は大阪周辺の多くの選定地と同程度の危険度である.

ということで,概ねであるが,安全な順に…

栃木福島≧京阪奈西≒畿央>京阪奈東≧大阪周辺各地≒岐阜愛知≒畿央東>大阪湾


【首都との同時被災】

東京都の同時被災の可能性については,首都圏直下地震との同時被災の可能性自体は各地ともほとんど無い.だが,南海トラフ地震については首都圏直下地震と大きな間を置かずに連続して発生する可能性が否定できないため,実質的に同時被災になる可能性がある.そうすると,栃木福島地域を除いて地震のリスクの高い地区(リンク先のサイトでの地震カテゴリーⅠ)は,それはすなわち首都圏と同時被災の可能性が高い地区ということになる.そうすると,概ね上に書いた順はあまり変わらない.

栃木福島≧京阪奈西≒畿央西>京阪奈東≧大阪周辺各地≒岐阜愛知≒畿央東>大阪湾


【都市機能活用】

近隣の都市機能を活用できるかという観点では,栃木福島地域は,首都圏まで結構遠く,そもそも首都圏が機能しない場合に活躍しなければならない都市なので,あまり期待できない.郡山が比較的近いが,高度な都市機能の活用という点では課題がありそうである.

岐阜愛知地域については,名古屋がさほど遠くなく,活用できる.しかし,前述のように名古屋は東海地震の想定震源域上になってしまっており,首都圏との実質的な同時被災の可能性を否定できず,やはり課題が残る.

三重畿央地域については,東部については名古屋依存,西部については京阪神圏依存である.名古屋依存については岐阜愛知と同様の課題があるが,西部については南海トラフ系の地震による京都の壊滅的な被災はないと思われるので幾分マシである.

都市機能活用という点では,こうではなかろうか.

大阪周辺各地≧大阪湾>京阪奈西≒畿央西>京阪奈東≧≒岐阜愛知≒畿央東>栃木福島


【広域アクセス】

栃木福島地域は,東北新幹線や東北自動車道沿線であり,一応高速交通は整備されているが,日本海側には出にくく,西日本へのアクセスも課題が多い.空港は福島空港まで1時間ちょっとといった距離であるが,国際便が多数発着できるような空港ではない.

岐阜愛知地域については,リニアができれば沿線になるとともに,中央自動車道もある.中部国際空港も1時間ちょっとである.だが,首都直下地震と南海トラフ地震がほぼ同時に発生した場合を考えると,名古屋を経由してのアクセスが難しくなる可能性があり,長野方面にしか出られなくなる可能性がある.

三重畿央地域については,リニアの沿線になる可能性があるとともに,新名神高速もある.東部については名古屋依存で中部国際空港が近く,西部については京阪神圏依存で関西空港が近い(が,いずれもやや遠く,程度問題).名古屋依存については岐阜愛知と同様の課題がある.

ということで,広域アクセスについては,こういう感じだろうか.

大阪周辺各地≧大阪湾>京阪奈西≒畿央西≒栃木福島>京阪奈東側≧≒岐阜愛知≒畿央東


…ということで,大阪以外ならリニア前提で畿央地区の西側,大阪周辺なら関空アクセス整備前提で京阪奈丘陵あたり,という結論になるかな.


大阪は副首都になれるか(広域ネットワーク編)

平時に置ける大阪の全国的,広域的な位置はさほど悪くはない.東西方向に交通路が通り,日本海側にも比較的出やすい.瀬戸内海を介しての交通も利用でき,四国方面には陸路の橋もいくつか架かっている.

しかし,大災害発生時を考えた場合,淀川の河口であることが災いして,副首都として全国的な機能を立地させるには,あまり条件がいいわけではない.「耐震補強すれば…」という意見も出てくるだろうが,周辺の建物やインフラを含めて全て新品に取り替えるわけにはいかないので,地理的立地条件は重要である.

大阪は副首都になれるか(平常時編)
大阪は副首都になれるか(用地確保編)
大阪は副首都になれるか(地盤編)
大阪は副首都になれるか(都市の位置関係編)
南海トラフ、超高層揺れ最大6m…長周期地震動
ONE OSAKAの都市計画・交通計画は妥当な案か(防災強化編)

さて,今回の検討は,用地確保編に書いた各地の広域アクセス性である.何度も書くが,「副首都」なるプロジェクト構想は大阪市や大阪府の地域振興策ではない.

【夢洲案】
大阪湾の埋め立て地の夢洲であるが,既存の新幹線駅は遠く,新幹線の路線を少々変更すれば駅ができるという立地でもない.リニアが大阪までやってきた場合,新大阪駅から延長してここを終点にできないこともないが,何とか利便を確保できるのはその路線だけである.国土幹線的な高速道路からも外れており,阪神高速から支線を伸ばせる程度である.三空港へは阪神高速経由でアクセスできるが,いずれも自動車頼みである.

ということで,広域利便性ははっきり言って悪い.

【伊丹空港案】
伊丹空港を廃港にする案である.既存の新幹線駅はやや遠いが,山陽新幹線の路線を付け替えて駅を作れば対応できないこともない.リニアが大阪までやってきた場合,新大阪駅から延長してここを終点にもできる.幹線的な高速道路も近い.伊丹空港を廃港にしてしまうので,国際空港へのアクセスは不便であり,首都の代役を果たすには少々能力不足は否定できない.ここから大阪の都心を経由して関空までの新幹線レベルのアクセス鉄道が欲しいところ.

ということで,夢洲よりはるかにマシだが,国際空港アクセスに課題ありと言ったところである.

【万博記念公園案】

万博記念公園を転用する案である.既存の新幹線駅はやや遠く,東海道新幹線の経路変更をするにも少々離れている.リニアや北陸新幹線が大阪まで達する場合,ここを経由するようにした上で,駅を設置する必要があろう.高速道路については非常に便利である.空港については,伊丹空港へは高速道路経由ですぐであるが,関西空港へは遠いため,上記のリニアや北陸新幹線を関空まで延ばす必要がある.

ということで,万博記念公園を活用する案も,国際空港アクセスには課題がある.

【陸上自衛隊信太山演習場案】
信太山演習場の転用案である.既存の新幹線駅は遠く,近くを新幹線の線路が通っているわけでもない.なので,リニアや北陸新幹線が大阪まで達する場合,大阪の都心を経由した上でここに達する必要がある.ここまでリニアや北陸新幹線が来るのなら,関空はすぐなので,結局関空まで路線整備をすることになる.高速道路については阪和自動車道があるので,一応大丈夫.空港については,伊丹空港は遠いが,関空は至近である.

ということで,関空は近くていいのだが,結局リニアや新幹線などを延伸する羽目になりそうな立地である.

【巨椋池跡地案】
巨椋池跡地案である.既存の新幹線駅は遠く,近くを新幹線の線路が通っているわけでもないので,リニアや北陸新幹線が大阪まで達する場合,ここを経由した上で大阪まで達する必要がありそうである.リニアをここ経由にした場合「奈良市付近」かどうか議論になりやすい位置である.高速道路については各方面とも非常に便利.空港については,伊丹空港は遠く,関空については距離があるのでリニアか北陸新幹線を大阪以遠に延伸してアクセス鉄道とする必要がありそう.

ということで,この案でも国際空港アクセスには課題がある.

【陸上自衛隊祝園分屯地】
祝園分屯地案である.巨椋池と広域利便性の性質は似ている.既存の新幹線駅は遠く,線路も遠いので,リニアや北陸新幹線が大阪まで達する場合,ここを経由する必要がありそう.ただし,リニアについては,ここなら「奈良市付近」の範疇には何とか入りそう.高速道路については一応何とかなりそう.空港については,伊丹空港は遠く,関空についてはリニアか北陸新幹線を大阪以遠に延伸してアクセス鉄道とする必要がありそう.

ということで,この案でも国際空港アクセスには課題がある.

【陸上自衛隊長池演習場】

長池演習場案である.祝園分屯地案と広域利便性の性質は似ている.既存の新幹線駅は遠く,線路も遠いので,リニアや北陸新幹線が大阪まで達する場合,ここを経由する必要がありそう.ただし,リニアは,「奈良市付近」か議論になりそう.高速道路は新名神が横を通る見込み.空港は,伊丹空港は遠く,関空についてはリニアか北陸新幹線を大阪以遠に延伸してアクセス鉄道とする必要がある.

ということで,この案でも国際空港アクセスには課題がある.

以上のように,ほとんどどの立地に共通するのは国際空港アクセスである.唯一関空の近い信太山演習場案であっても,こんどは陸上交通の面での鉄道の広域アクセスに課題があり,結局は関空までリニアか新幹線を作ることになりそうである.

ということは,関空への高速鉄道整備は副首都機能の立地が大阪府下および近隣である限り必須のプロジェクトであることがわかる.そうすると,立地場所を選ぶには国際空港アクセス以外の面での優位性から選ぶことになりそう.リニアや北陸新幹線の経由上に無理なく立地できるところとなると,この中では万博記念公園案,祝園分屯地あたりが合格?


大阪は副首都になれるか(都市の位置関係編)

以下の話の続きである.

大阪は副首都になれるか(平常時編)
大阪は副首都になれるか(用地確保編)
大阪は副首都になれるか(地盤編)

今回は既存の都市との配置についてである.かつての首都機能移転の議論の際,東京一極集中への反省の観点から,際限なく都市化が広がるような地への移転は避けようという議論があった.そのため,既存の大都市そのものを新首都にはしない方針であった.また,新首都そのものは必要最低限の規模とするべく,都市の機能は首都機能そのものに限定し,通常の都市機能は近傍の都市の機能を活用しようという方針でもあった.

つまり,既存の大都市そのものへの移転を避けながらも既存の大都市からは遠くはないところを選ぼうということであったかと思う.その結果として全国で数カ所が選定されるところまでは話が進んだ.首都の移転と副首都の設置とは必ずしも同じではないが,同様の配慮は必要であろうと思われる.

「大阪を副首都に!」と叫んでいる方々には申し訳ないが,昨今の首都機能を備えた新しい都市に求められる都市像は,大都市ではないのだ.では,各地区について周辺の集積具合と既存の大都市との接続具合についてみてみよう.

まずは大阪府下である.以下の地図は,(勝手に選んだ)候補地と近傍の大都市が同じ範囲に収まるように縮尺を選んだものであり,右下のスケールで距離を知ることができる.

【夢洲案】
都心として本町を選んでみた.実際の距離は道のりで夢洲-本町間で約14km程度,約30分である.

大都市まで十分近く,大都市の一部そのものといった立地である.既存の大都市への立地を避けるという観点ではあまり適切な立地ではないが,既存の都市の機能を活用するという観点では比較的便利な立地である..

【伊丹空港案】
伊丹空港から本町までは,道のりで約18km,約30分あり,舞洲とあまり変わらない.

すなわち,伊丹空港跡地を活用するという方針についても,上の夢洲案と基本的には同じ特徴を持っており,大都市の一部そのものといった立地であり,既存の大都市への立地を避けるという観点では適切でない.一方で,既存の都市機能は活用できる.

【万博記念公園案】
万博公園から本町までは,道のりで約19km,約30分であり,伊丹空港よりも若干遠目ではあるが,ほとんど変わらない.

すなわち,万博記念公園を活用する案も,夢洲や伊丹空港と同じく大都市の一部そのものであり,大都市への立地を避ける点では適切でないものの,既存の都市機能は活用できる.

【陸上自衛隊信太山演習場案】
信太山演習場から本町までは,道のりで約27km,約50分であり,万博公園からはさらに遠い.だが,演習場自体が政令指定都市の堺市内であり,堺市の中心市街までは約10kmである.

舞洲,伊丹空港,万博公園などよりはかなりマシだが,大都市には近い.

以上が大阪府下についてである.続けて,大阪府以外である.

【巨椋池跡地案】
ここから最も近い大都市は京都であり,道のりで約14km,約30分である.また,大阪までは道のりで約44km,約45分である.

大都市大阪からは一定の距離は保ちながらも1時間以内である.京都市の方が近く,行政的には宇治市と京都市にまたがった区域である.

【陸上自衛隊祝園分屯地】
ここから京都までは約32km,45分であり,大阪についても約39km,50分である.つまり,京都と大阪からほぼ等距離に位置する.


大都市とは一定の距離を保ちながら,特定都市に依存せずに複数の都市と交流できるという位置にある.

【陸上自衛隊長池演習場】
ここから京都までは約25km,50分であり,大阪についても約44km,60分である.


やや京都市に近いが,京都,大阪ともにやや時間がかかる.

以上のように,夢洲,伊丹空港,万博公園は大阪市にかなり近くて都市内そのものといった立地であり,信太山演習場は大阪市からは一定の距離があるが政令市の堺市内である.巨椋池跡地と長池演習場は京都市にかなり近く,祝園分屯地は京都,大阪ともに一定の距離を保ちながら.どちらに近いということも無い.

都市配置的には,この中では祝園分屯地が最適か?


大阪は副首都になれるか(地盤編)

前々回は副首都の立地場所として,平常時における大阪は悪くないという話であった.前回はまとまった土地がどこにあるかの話であった.

今回は,大阪市および前回取り上げた地区の地震動の話である.副首都は地域振興策では無く,非常時—特に首都直下地震や南海トラフ地震—におけるバックアップ機能を果たすことが期待されるため,地震で機能停止するような場所には設けられない.首都直下地震と南海トラフ地震は事実上連動する可能性もあるので,東京以外ならOKというものでもない.首都が機能停止している間に南海トラフ地震が襲うという最悪シナリオであっても対応できるのが副首都の要件である.

さて,以前にも参照したこのファイルを見ながら話をしよう.昨今の建築・建設技術等の発達に伴い,震度5台では大きな都市災害は起こらなくなってきているので,震度6弱以上あるいは震度6強以上で見てみよう.詳しい震度については,こちらのサイトの方が便利かもしれない.

まずは大阪府下である.

【大阪市中心部&夢洲】
震度6弱以上で見ると,ほとんど真っ赤(30年以内確率26%以上),つまり大阪市の中心部には逃げ場が無い状態である.夢洲も同様.震度6強以上だと,地下鉄堺筋線と谷町線附近の南北に長い地域—すなわち上町台地が若干マシで30年以内確率3%以下になっている.つまり,大阪市内は対地震の観点では非常に心配だが,敢えて言えば上町台地がマシ,ということである.上町台地の庁舎を放棄して府庁を埋め立て地に,というのは災害リスクの観点では論外ということ.なお,30年以内に3%の確率で震度7に見舞われる地区は大阪市内では京橋駅北方や住之江区の一部のようであり,このへんは特に避けた方がよさそう.

【伊丹空港付近】
地震に関しては概ね大阪市内の上町台地と同程度のようである.ただし,大阪空港の西側の猪名川に近いあたりは大きな震度に遭遇する確率が高めのようであるので要注意.中国豊中インター付近も地震リスク高め.

【万博記念公園付近】
ここは伊丹空港付近に比べて,さらに半段〜一段,地震リスクが低くなる.震度6弱以上では伊丹空港付近と同程度だが,震度6強以上だと色が1段薄い.他の視点での結果も同様の傾向だ.

【陸上自衛隊信太山演習場附近】
ここは,地震のリスクに関しては万博記念公園付近と伊丹空港付近との中間的な度合いのようである.大阪市内よりはマシだが,決定的にリスクが低いわけでは無い.

…ということで,大阪市内は論外として,府下では万博記念公園あたりが無難そうに見える.続いて大阪府以外についてである.

【巨椋池跡地附近】
なんとなく予想はしていたが,大阪市内と同レベルの地震リスクである.上町台地の方がマシ.沼地の干拓地であるので,足下はズブズブということだろう.堆積物が厚く層をなしているのかもしれない.ここは開発はしやすそうだが,対災害を考えると重要拠点には向いていなさそう.

【陸上自衛隊祝園分屯地附近】
ここは万博記念公園と同程度のリスクのように見える.ただし,分屯地を超えて開発する場合は要注意で,東側の木津川方向は地震のリスクが急に大きくなる.逆に西側の京阪奈丘陵の地震リスクは大阪付近の開発可能な地域の中では低い部類である.

【陸上自衛隊長池演習場附近】
ここは祝園分屯地よりもさらに若干ではあるが地震リスクが低そう.京阪奈丘陵と同程度だろうか.

…ということで,大阪付近でまとまった土地があり,なおかつ地震のリスクが低めのところを探すと,万博記念公園付近か陸上自衛隊祝園分屯地附近の京阪奈丘陵,あるいは陸上自衛隊長池演習場附近あたりということになる.


大阪は副首都になれるか(用地確保編)

前回は副首都の立地場所として,平常時における大阪は悪くないという話であった.今回は「大阪に副首都としての機能を受け入れる空間はあるのか」という話である.要するに用地確保の問題である.

すでにNHKや日銀といった一部の機関は非常時に大阪で全国的機能を代替できるように準備しているという話があったかと思うが,最も重要なのは日本政府そのものの各省庁等をはじめとする機関である.これら機能とほぼ同じものを大阪に立地させるには,(ハコモノ云々という話はあるものの)やはりある程度のハコは用意しなければならない.

東京の霞ヶ関地区(およびその周辺の官庁街)と同程度の面積が確保できるかどうかが一つの目安だろうか.概ね1.5-2㎢程度か.

以下,地図のスケールは全て同じである.


【夢洲案】
大阪府下で探してみると,まず考えられるのは大阪湾の埋め立て地である.大阪湾の埋め立て地である咲洲や舞洲には既にいろいろと立地してしまっているので,夢洲なら今のところがら空きである.「統合型リゾート」と称するカジノ候補地でもある.面積的には十分広い.

だが,カジノはともかく隣の咲洲の高層ビルを大阪府庁舎にしようとして失敗したという黒歴史(長周期地震動に弱かった)がある.津波は大丈夫かな? その上,交通アクセスも今のところ道路が1本,ヒミツの地下鉄トンネルが1本という状況なので,かなり不便である.決定的なのは広域交通の弱さで,新幹線駅まで40-50分以上かかる.

【伊丹空港案】
これについては,ずいぶん前から伊丹空港を廃港にして跡地を首都機能移転先にする構想がある.

航空ネットワークの関空への完全集約が必要なので,”口撃”されている通常型新幹線の関空乗り入れが必要であるばかりか,この地区から関空へのアクセス交通整備が必須である.JR宝塚線や阪急伊丹線,阪急宝塚線など通勤鉄道線が近隣に複数あるほか,山陽新幹線も近いので路線をちょっと曲げれば新幹線駅を設置することも困難では無い.高速道路も至近である.大阪や阪神圏の市街地にも近い.ただし,ここを転用してしまうと京阪神圏の空港は全て海岸地帯になり,地震災害時には同時に空港が使えなくなる可能性がある.

【万博記念公園案】
結構便利な位置だが,公園をつぶすことにはいろいろ意見が出そう.

高速道路は至近であり,モノレールや通勤鉄道もある.万博開催期間中には地下鉄が臨時で延伸されていたこともあるので,その気になれば地下鉄もOKであるほか,阪急千里線も近い.新大阪はやや遠いので,東海道新幹線をひん曲げるか,これからつくるリニアの経路をひん曲げるかする必要があるかも.空港は大阪空港まで割と近いものの,関空へのアクセスの課題は多く,迅速な移動が難しい.

【陸上自衛隊信太山演習場案】
やや南北に細長いが面積はある.自衛隊の移転が必要.

近隣に阪和線や泉北高速鉄道線があるので,通勤輸送の確保は何とか可能そうに思える.高速道路はすぐ横を走っている.だが,広域アクセスは課題が多く,新大阪は結構遠いため,リニア新幹線を延伸してここまで引き入れるか,例の”口撃”されている通常型新幹線の関空乗り入れ線をこの地区経由にする必要があると思われる.山陽新幹線方面からは,なにわ筋線を新幹線対応で建設してここまで直通させる必要がある.

以上が大阪府下のまとまった土地であろう.いずれも一長一短である.


神戸〜阪神都市圏方面では,まとまった土地が無さそうなので,東方向で探してみる.

【巨椋池跡地案】
大阪市の北東で京都市の南方,木津川,宇治川,桂川の三線が合流する地点の東側であり,かつては巨大な池があった地区である.現在は干拓されて広大な田んぼになっている.

通勤鉄道は京阪と近鉄が近傍を走っているので,その気になれば線路を敷きかえることは可能であろう.高速道路は東西南北に走っているので問題無し.広域アクセスの面では,新幹線駅がやや遠いので(奈良の人には叱られそうだが)ここを副首都にするならリニアはここを通した方がいいだろう.だが,空港については伊丹,関空ともに遠く,北陸新幹線を大阪につなぐ際の経由地としてこの地区を指定した方が良いと思われる.だが,最初に書いたように,この土地はもともと淀川水系の三線合流地帯の巨大沼地であったところなので,地盤が良いとは言いがたく,水害の危険性も高そうなので,あまり高度な利用には向いていないと思われる.

【陸上自衛隊祝園分屯地】
河川近くの沼地がダメなら,じゃぁ丘陵地はどうだろうか.上の巨椋池から10-20kmくらい南に行くと京阪奈丘陵というほぼ手つかずの丘陵地帯がある.その中の国有地はというと,大面積なのはやはり自衛隊がらみである.

ここを転用するには自衛隊の移転先が必要である.近隣の丘陵地帯も手つかずに近く,大面積の確保はしやすい.通勤鉄道は周辺に複数あるが,支線等の延伸は必要である.いずれの線も高速運転向きではないので,大阪市内までは時間がかかる.既存の新幹線駅は遠いので,これからつくるリニア駅はここへのアクセスを念頭に設置する必要がある.奈良市にも近いのでリニア奈良駅とすることもできる.また,北陸新幹線を大阪につなぐ際の経由地としてこの地区を指定した方が良いと思われ,一部の試案にあるように,北陸新幹線と関空アクセス新幹線を接続して空港アクセス鉄道とすることが有効と思われる.

【陸上自衛隊長池演習場】
祝園の近くには長池という演習場もある.ここは他よりやや狭い.

演習場の移転先が必要という点を含めて,上の祝園とよく似た状況である.通勤鉄道はJR奈良線くらいしかない.

以上のように,大阪湾の埋め立て地と巨椋池の埋め立て地とは論外として,大阪府下および周辺にはいくつか候補地はありそうである.


大阪は副首都になれるか(平常時編)

副首都なる機能を大阪に置くことが適切かどうか,いろんな面から考えてみよう.副首都は国家機能なので,単なる大阪の地域振興事業ではない.すなわち,大阪の人さえ良ければ良いというものではない.多面的検討は必要である.

まずは何も特別なことは起きていない平常時の場合についてである.

普段の平和な時期における大阪の位置は悪くない.東京からは適度に離れており,西日本に対しての地理的な距離自体は比較的近い.加えて,東京よりもアジア各国に対して若干近く,アジアのゲートウェイ都市になりうるポジションを占めることもできる.

だが,東京が国内の東日本に対して陸路のアクセスがほぼ完璧になってきているのに対し,大阪の広域アクセスは弱く,九州や四国の人々が一堂に会するには東京が便利,などという笑えない状況は続いている.

大阪を中心とする広域道路ネットワークについては,一部まだ工事中/未着工区間もあるものの概ね先が見えている状態である.だが,トラックや観光客はともかく,ビジネスマンが道路を使って広域移動することは希であるので,大阪を中心とするビジネス広域交通は今ひとつであると言える.

つまり,平常時における副首都大阪としての大きな課題は,国内広域アクセスであり,具体的には中央,北陸の各新幹線の完成はもちろん,四国新幹線や山陰新幹線などのネットワークをも完成させることが必要である.同時により遠方の国内や国際交通を担う航空ネットワークの要である空港アクセス時間の短縮も必要である.(逆に,こういった広域公共交通ネットワークを充実させることができないと,副首都には厳しいということ)

なお,関空アクセスについては,これまでにリニア新幹線や通常型新幹線の乗り入れ,あるいはなにわ筋線といった提案がなされているが,リニア新幹線は単線だと役に立たず,かといって複線だと兆単位近くの投資が必要で厳しい.なにわ筋線については新大阪からノンストップで40分などという試算もあるようだが,現状でも1駅停車で48分で到達するので,2000-4000億円の投資の割には効果がマイルドすぎる.なにわ筋線での関空アクセス構想を自画自賛してらっしゃる方もいるが…あんまりインフラプロジェクト構想のセンスないよね.バックのブレインを変えた方がいいと思う.

ちなみに,関空への通常型新幹線乗り入れ構想を”口撃”している人もいるが,フランスのTGVはシャルルドゴール空港に乗り入れているし,ドイツのICEはフランクフルト空港に乗り入れている.スイスのインターシティーはチューリヒ空港やジュネーブ空港に乗り入れているし,オランダのスキポール空港へはTGVの国際版のタリスが発着する.ロンドンのヒースロー空港へは新幹線のような列車こそ走っていないが,ヒースロー急行という準高速鉄道が乗り入れている.フランスやドイツには航空便名の付いたTGVやICE列車が走ってさえいる.

センスのないインフラ構想って恥ずかしいよね.