リニア新幹線整備の理由(基本計画のツッコミどころ編)

前回は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)全国新幹線鉄道整備法施行令(施行令)に忠実に段取りをするとどうなるのかについて書いてみたが,実際の中央新幹線計画に関する手順はいろいろと妙である.今回は基本計画関係である.
まず,全幹法に従って1973年に中央新幹線の基本計画が立てられているので,全幹法により考慮された事項も施行令により実際に調査された項目も(ドラえもんもBack To The Futureのデロリアンもまだ出現していないので)当時の想定で調査され,決定されている.そうすると,それぞれ,以下のツッコミができる.まずは全幹法第4条関係.

  • 1.輸送需要の動向
    輸送需要を想定するには,所要時間がわかっている必要がある.速い交通機関には客が集まるが,遅い交通機関には客が来ない.速度がわからないと需要など想定のしようがない.当時の新幹線は250km/hを想定したインフラ上を210km/h運転していた.500km/hはまだまだなのに,当時の想定で作った計画を流用している.250km/hが260km/hになりました…なら大して違いはない.300km/hでも2割の違い程度だ.倍半分ではさすがに気がつく(はず,なんだがねぇ).
  • 2.国土開発の重点的な方向
    当時の国土計画は「新全総」,国土整備の方向性としては「大規模プロジェクト構想」,大規模インフラ整備で「国土の均衡ある発展」を目指すのが当時の方向性であった.今は「国土の均衡ある発展」の看板は下ろされ,「国家のリスクマネジメント」というのが最新のスローガンである.方針が違えば形成すべきネットワークが違うはずだが,そのまま流用.
  • 3.効果的な整備を図るため必要な事項
    当時は,日本国有鉄道.今は旅客鉄道会社.しかも株式を全部放出した完全民営会社.「効果的」の基準が異なる可能性がある.

次に施行令第二条関係.

  • a.輸送需要の見通し
    上にも書いたように,500km/h運転の交通機関はまだ存在せず,せいぜい250km/h運転が想定範囲なので,見通しもこれに基づくもの.さすがに倍半分では結果は大きく違う.基本計画策定時の議事録等の公文書が残ってれば書いてあるはずだが…
  • b.所要輸送時間の短縮
    「所要時間=距離÷速度」なので,速度が倍違えば所要時間も倍半分の関係.速度が決まらない限り,これは求まらない.速度が変われば,これも変わる.変われば計画策定時の前提条件が大きく変わったことになる.
  • c.輸送力の増加がもたらす経済的効果
    輸送力とは,量的な能力と速度的な能力の2面あるが,少なくとも速度面は大きく変更されている.経済効果は速度面が大きく影響するが,速度が変われば経済効果は大きく変わる.大きく変われば計画の前提条件も大きく変わったということになる.
  • d.収支の見通し
    収支見通しは建設費と運賃と客数と運営費が大きな要因だが,リニアと鉄輪では建設費も客数も運営費もだいぶ違うはずだが,基本計画時に『「鉄輪式の中央新幹線」と「リニア式の中央エクスプレス」とが比較された』などという話は聞いたことが無い.というか,当時は公式検討できるほども実験は進んでおらず,だいぶ後になって技術的な見通しが公式にお墨付きを得ている.
  • e.他の鉄道の収支に及ぼす影響
    速度が違えば影響が変わる.国土計画が変われば路線形態,経路,起終点すら変わる可能性がある.速度を計画時の倍にしておいて,計画時と同じことが言えるのか?

このように,基本計画策定時とは前提条件が大きく変わってしまっているにもかかわらず,基本計画は再検討されることも無く次の段階に進んでしまった.社会状況が大きく変わるような状況下では同じ計画では具合が悪いというのは,教科書レベルの話なんだけどなぁ.基本計画の合理性は?大義は有りや無しや?
事実上の法令違反ではないか?